無責任な妄言

顔の良い男を浴びるほど見ていたい

「神緒ゆいは髪を結い」には可能性がある

『神緒ゆいは髪を結い』|集英社週刊少年ジャンプ』公式サイト https://www.shonenjump.com/j/rensai/kamioyui.html

 

諸兄諸姉は週刊少年ジャンプを読んだことがあるだろうか。

ワンピースを始めとしてヒロアカ、ハイキュー、ブラクロ、鬼滅の刃、約ネバ…様々な神漫画が載っている日本一の少年漫画雑誌ことジャンプである。

しかし、ヒット作を生み出すのは並大抵のことではなく、神漫画が生まれる一方で毎年毎クール「打ち切り」の憂き目にあう漫画も当然少なからず存在している。

 

上に載せたサイトから第一話を読んだとき、きっと諸兄諸姉の皆様方は「まーたジャンプの十週打ち切り漫画が始まったよ」と思ったことだろう。正直なところ、筆者もこの漫画の一話を読んだときはまったく期待できなかった。

問題がありすぎる主人公に、今時「二重人格」「スケバン」「暴力」と令和の世には若干古い属性を載せたヒロイン…作者の椎橋寛先生のファンでも、「あっこれはダメかもしれない」という滑り出しの悪さだ。

 

だが、「神緒ゆいは髪を結い」は違うのだ。どうか信じてほしい。

 

当初はラブコメギャグ路線で始まったこの漫画だが、話が進むにつれて(具体的には二巻後半あたり)からバトル路線に足を踏み出す。すわジャンプ漫画にありがちなバトルでテコ入れか、と思いきや、これが思いもよらぬ“昇華”を果たすことになる。

バトルというジャンルにもいろいろあるが、ジャンプのバトル漫画と言えばおおよそが「主に少年・青年が」というのが定番だろう。しかし「神緒ゆい」の場合は脅威の戦闘力を持つ天衣無縫のスケバン「少女」の黒ゆいがバトルを繰り広げるのだ。

古今東西、少女が熱いバトルを繰り広げるストーリーは珍しくない。しかし「神緒ゆい」の場合は「スケバン」という要素と、一話から地味に伏線が張られていた「妖怪」要素、さらには椎橋先生得意のドタバタコメディが異様な化学反応を起こしてしまったのだ。

全国各地のスケバン少女を叩きのめしてきた黒ゆい。そんな彼女にリベンジを果たそうと全国各地からスケバン達がお礼参りにやってくる!しかもそのスケバンは皆「蟲」という怪物をその身に秘め、恐ろしい異能を操るのである!

 

あるときは「和歌山県・日本人形スケバン」。日本人形を用いて相手を恐怖させ、そこから幻覚などを見せ敵をじわじわと追い詰めてくるスケバン。

あるときは「静岡県・死のヴァイオリンスケバン」。「デススペルヴァリウス」なるヴァイオリンを演奏し、その旋律を聴かせた者をゾンビ化、そして死に至らしめるスケバン。

 

…聞いているこっちが「アホか?」と思う正気を疑うような設定である。しかし、これが「神緒ゆい」の魅力だ。この令和の世に、こんな神がかった馬鹿の発想を大真面目に扱う漫画が果たしてどれほどあるだろうか?

「日本人形スケバン」戦では、ヒロイン白ゆいが精神的に追い詰められてしまい黒ゆいとして戦闘が出来なくなってしまう。そこで活躍するのは第一話でパリピヤンキーとして登場した鍵斗さんである。最初は見掛け倒しのカッコつけ野郎だった彼だが、ゆいとの交流で少しずつ成長し、「ありのままの自分を認め、受け入れてくれたゆいを守る」という決心を固め、異能どころか戦闘能力も持たない身で日本人形スケバンと相対する。

「女を捨てた」と語るスケバンを「女にしてやる」と宣言し、彼女の髪を女性らしく結い上げるという方法で。

 

「神緒ゆい」はわかりやすく言うと「トンチキ」に分類される漫画である。二重人格スケバンとラブコメしたり、ラブコメから急にホラーになったり、どう考えてもジャンプ漫画のイメージに添うような正統派の漫画ではない。

しかし、一見馬鹿げた展開の中には確かな「芯」と呼べるものがあるのである。クズっぽい鍵斗さんがどんどん人間として成長していき、白ゆい・黒ゆいも「仲間に頼る」という成長を果たす。その場しのぎの滅茶苦茶な展開のようでいて、この漫画はずっと登場人物を真摯に追い続けている。

 

B級映画のような破天荒な味わいと、その奥に見え隠れする誠実なストーリー。この魅力に気づいた時、きっとあなたも「神緒ゆい」のファンになるのではないだろうか。

 

しかし、そこは弱肉強食のジャンプ連載である。滑り出しが悪かったためか、B級なストーリーラインがメイン層に受けないのか、「神緒ゆい」は今もなお打ち切りの危機に瀕している。面白いんだけどなあ。ほんとに。

 

邪馬台国日本最古のスケバン」をラスボスとして掲げた「神緒ゆい」が今後どのような羽ばたきを見せるのか、見せる前に打ち切られてしまうのか。

きっと連載を継続し、これからもハチャメチャで面白い物語を展開してくれるだろうという可能性を筆者は固く信じている。

 

 

神緒ゆいは髪を結い 1 (ジャンプコミックス)

神緒ゆいは髪を結い 1 (ジャンプコミックス)

 

 

 

神緒ゆいは髪を結い 2 (ジャンプコミックス)

神緒ゆいは髪を結い 2 (ジャンプコミックス)

 

 

夢野久作を引用するブラコンシスコンな死のヴァイオリンスケバンこと橘城アヤ子さんが活躍する3巻以降が待ちきれない。